この貴重な文化的・環境的資産を守り伝えるため、環境省が指定する選定事業『残したい「日本の音風景100選」』にも、全国各地の鈴虫や松虫の名所が数多く名を連ねている。地域住民による保全活動や環境保護の取り組みは、単なる景観の維持にとどまらず、日本の原風景とも言える聴覚環境を未来へ継承するための重要なアプローチとなっている。
一方で、生物学的な観点から発声の仕組みを解き明かす日本昆虫学会の研究者らは、鈴虫の求愛行動における鳴き声のバリエーションや、微細な翅の構造が作り出す驚異的な共振システムに着目している。鈴虫のオスは、右の表翅の裏側にある「やすり目」と、左の表翅にある「摩擦片」を高速で擦り合わせることで、まるでバイオリンのような美音を増幅させている。
生態学的研究と環境保全運動が結びつくことで、鈴虫が生きられる豊かな里山や庭園の環境を維持することの価値が、今あらためて再評価されているのだ。