2012年の論文発表以来、数学界のトップランナーたちは論文の解読を試みました。しかし、望月教授が構築した理論があまりにも独自体系であり、前提となる基礎知識だけでも数百ページに達したため、査読作業は極めて難航しました。
決定的な亀裂が決定的となったのは2018年のことです。当代屈指の数学の超天才であり、同年にフィールズ賞を受賞することになるボン大学のピーター・ショルツェ(Peter Scholze)教授と、フランクフルト大学のヤコブ・スティックス(Jakob Stix)教授が来日し、京都大学で望月教授らと1週間に及ぶ直接対論を行いました。対談後、ショルツェ氏らは「論文第3部の『系3.12』の論理展開に修復不可能な欠陥(ギャップ)が存在する」とするリポートを公開し、ABC予想の証明として認められないと公に表明しました。ショルツェ氏は望月論文の記述について、重要な部分の説明があまりに省略されており「苦痛に満ちた読書体験(rough reading)だった」と率直な不快感を示しています。
これに対し、望月教授側も猛然と反論文書を発表しました。「ショルツェ氏らは従来の簡素化された数学の型に理論を無理やり押し込めて理解した気になっており、異なる宇宙間の歪みを厳密に測るIUT理論の本質的な仕掛けを完全に誤解している」と指摘し、両者の主張は完全に平行線を辿ることとなったのです。
2026年4月、京都大学数理解析研究所が編集する国際学術誌『PRIMS』が望月教授の論文を受理したと発表し、2026年3月に特別号として正式出版されました。通常であれば学術誌への採録は「証明完了」の公式サインです。しかし、望月教授自身が所属する研究所が運営する学術誌での採録であったことや、海外の有力数学者たちが抱く疑念が解消されないまま強行されたと受け取られたことから、国際的な疑念を払拭する決定打とはなりませんでした。