『もののけ姫』が放つ圧倒的な迫力と神話的な重厚感は、一線級の俳優陣による名演によって支えられています。とりわけ美輪明宏が演じたモロの君は、日本アニメ史に残る金字塔的怪演となりました。
美輪明宏が吹き込んだ「神の母性」と「獣の凶暴性」
当初、モロの君の声には別のキャスティング構想もありましたが、宮崎監督は「知性と気品、そして宇宙的な母性と恐ろしさを同時に表現できる唯一無二の存在」として美輪明宏に熱烈なオファーを出しました。
有名な「黙れ小僧!お前にあの娘の不幸が癒せるのか!」という怒号のシーンの収録時、美輪は単なる激昂ではなく、人間の身勝手さに対する神の深い哀しみと、サンへの無償の愛を込めて演じ切ったと述懐しています。宮崎監督はその迫真の演技に鳥肌を立て、その場で演出プランを美輪の表現力に合わせてブラッシュアップしたという逸話が残されています。
名優・森繁久彌が演じた乙事主の執念
500歳の盲目の猪神・乙事主を演じたのは、日本映画界の大巨頭・森繁久彌でした。老境に達しながらも誇りを失わず、破滅へと向かう一族の長を、森繁は唸り声や吐息一つにまで魂を込めて表現しました。タタリ神へと変貌していく際の生々しい絶叫は、映画館の音響空間を震撼させる迫力を生み出しました。