阿木燿子の作詞スタイルは、従来の歌謡曲における「型」を鮮やかに裏切ることから始まった。彼女が生み出す歌詞は、単なる感情の吐露ではない。一編の短編映画やドラマの脚本に近い奥行きを備えている。登場人物の息づかい、着ている服の質感、街角の煙草の煙までが言葉越しに見えてくるような立体感があるのだ。
ヒット曲誕生の裏側には、メロディが持つ「言葉にならない声」を繊細に聴き取る卓越した感性があった。曲を何度も聴き込む中で、旋律の端々に隠された主人公のキャラクター像を立ち上げ、その人物が最も発したい「生の声」を探り当てていく。受動的な女性像が好まれた時代に、主体的に生き、時に毒や強い意志を吐き捨てる女性を描き出したアプローチは、当時の音楽界にとって大きな衝撃だった。