原監督の指導法が従来の陸上界と決定的に異なるのは、そのキャリアの出自にあります。中京大学時代はランナーとして名を馳せ、中国電力陸上競技部の創部に一期生として参加したものの、重い怪我により27歳で選手生命を絶たれました。そこから約10年間、同社で一般のビジネスマンとして社業に従事した経験が、指導理念の土台となっています。
配属された営業部門で、原監督は「省エネ空調設備(エネキャリー)」の販売において伝説的な実績を残しました。当時、まだ認知度の低かった新システムを売り込むため、既存の営業マニュアルを捨てて顧客の潜在ニーズを徹底的に分析。結果として全社トップクラスの営業成績を叩き出しました。自著の手記でも、「ものを売るのも、人を育てるのも、相手の心に火をつけて自発的に動かすプロセスは全く同じ」と述懐しています。
2004年に廃部寸前だった青山学院大学陸上競技部の監督へ就任した際、持ち込んだのは陸上界の伝統的な根性論ではなく、ビジネスの世界で標準化されていたマネジメント手法でした。
- 目標管理シート(MBO)の徹底活用:選手自身が「大目標」「中目標」「日々の行動計画」を言語化し、毎月監督と面談を行う仕組み。他者から与えられたノルマではなく、自ら設定した約束として取り組ませます。
- 半歩先の目標設定:高すぎる目標で挫折させず、低すぎる目標で甘えさせない「成功体験を連続させる」ターゲット設定。
- 「言葉の力」によるマインドセット:箱根駅伝のたびに打ち出される「〇〇大作戦」などのフレーズは、単なるマスコミ向けのパフォーマンスではなく、選手全員が共通のビジョンと緊張感、そしてワクワク感を共有するための計算されたアンカー(感情の引き金)です。
「走るだけの人間になるな。社会に出て通用するビジネスパーソンになれ」と指導する姿勢は、競技力向上だけでなく、就職活動における青学陸上部員の圧倒的な内定実績にも直結しています。