横浜が開港し、近代日本の玄関口として急速に発展していた1872年、横浜関内の老舗天ぷら天吉はその産声を上げました。初代が屋台から立ち上げ、関東大震災や横浜大空襲という幾多の戦火と災禍を乗り越えて暖簾を守り続けてきた歴史は、まさに横浜の近現代史そのものです。
現在店を切り盛りするのは、サザンオールスターズのメンバーである原由子氏の実兄である5代目店主・原茂男氏です。原由子氏の自著や回顧録(『あじわい夕日通』『娘心にブルースを』など)にも、幼少期に過ごした天吉の帳場や、店内に充満していた胡麻油の芳香、出前で慌ただしく駆け回る職人たちの姿が生き生きと描写されています。
桑田佳祐氏も学生時代や若手時代から幾度となくこの店を訪れており、ファンの間では単なる飲食店を超えた「サザンオールスターズの原点」として崇められています。店内には過度なアイドル的演出こそないものの、レジカウンターや待合スペースにはサザン関連の記念品やさりげないサインが飾られており、老舗の品格と温かな家族愛が共存する独特の空気を生み出しています。