北極と南極の双方で共通して発生する特異な自然現象が、「白夜(びゃくや)」と「極夜(きょくや)」です。一日中太陽が沈まない白夜と、太陽が地平線から一切昇らない極夜。この白夜と極夜の発生理由は、地球の自転軸が公転面に対して約23.4度傾いていることに起因します。
極圏(緯度66.6度以上のエリア)では、夏場は自転しても太陽光が当たり続ける領域に入り、冬場は地球の影に入り続けます。北半球が白夜のとき南半球は極夜となり、半年後にはその関係が完全に逆転します。
旅行記などではロマンチックに語られがちな極夜ですが、現場で長期滞在する観測隊員にとっては精神と肉体を極限まで削る過酷な試練となります。日本の南極地域観測隊の活動拠点である昭和基地(東オングル島・南緯69度00分)では、毎年5月下旬から7月中旬にかけての約40日間にわたり、太陽が完全に顔を出さない極夜の期間を迎えます。
昭和基地の越冬隊員が残した手記や報告書には、閉鎖された極限環境におけるリアルな人間の心理状態が記録されています。
「正午前後、北の地平線がわずかに紫がかった薄明を迎えるだけで、世界は終日漆黒の闇に沈む。体内時計は狂い、どれだけ寝ても晴れない倦怠感と、些細な物音や仲間の言葉遣いに過敏になる精神の変調。ブリザードが基地の金属壁を叩きつける夜、自分たちが地球から切り離された宇宙ステーションにいる感覚に囚われる」(越冬隊員の手記・回想録より要約)
極夜期には日光を浴びられないことによるビタミンD不足や、セロトニン分泌の激減による鬱状態(いわゆる「極夜症候群 / ウインター・オーバー・シンドローム」)が隊員を襲います。日本の観測隊では、あえて規則正しい日課を徹底し、隊員同士でテーブルを囲む豪華な食事会や「ミッドウィンター祭」といったイベントを催すことで、孤立感によるメンタルの破綻を防ぐ工夫が何十年にもわたり継承されてきました。
一方、北極圏のノルウェー・スヴァールバル諸島やアラスカ北部の集落では、数千人規模の一般市民が生活しており、町全体で極夜を乗り切るためのライトアップフェスティバルを開くなど、文化としての適応が見られます。「人が暮らしてきた北極」と「研究者のみが挑む南極」の現場感の隔たりは、生活のディテールにも色濃く表れています。