本書が提示するロジックは極めてシンプルでありながら、法哲学の根幹を射抜いています。本書を手に取った読者が真っ先に衝撃を受けるのは、「法律」と「憲法」の決定的な違いに関する解説です。
多くの人は漠然と「憲法も法律の一種であり、国民が守るべき決まりごと」と誤認しがちです。しかし、楾氏の解説はこれを根本から覆します。国民同士のトラブルを防ぎ、社会秩序を維持するために国民を縛るルールが「法律」であるのに対し、憲法が名指しで縛っている対象は国民ではなく「国家権力(政治家・官僚・裁判官・警察など)」そのものです。これこそが、中世の絶対王政や権力の暴走を押しとどめるために人類が数百年かけて獲得した「立憲主義」の知見に他なりません。
書籍の構成は、大きく「基本編」と「応用編」に分かれています。
基本編では、まず「ライオンをなぜ檻に入れる必要があるのか」「檻はいかにして作られ、何を守るのか」を解剖します。ライオンの力(権力)は社会を外敵や混乱から守るために絶対に必要なものですが、腹を空かせたり機嫌を損ねたりすれば、主権者たる羊(国民)に牙を剥きます。だからこそ檻という憲法で行動範囲を厳しく制限し、檻が壊されないように「三権分立」という複数の見張り番を配置する仕組みを解説します。
応用編では、現代の日本で議論される具体的な論点――解散権の行使、緊急事態条項、表現の自由の制約、平和主義などを取り上げ、「その政策や法改正は檻を壊す行為なのか、それとも檻の適切なメンテナンスなのか」を読者自身に問いかけます。難しい学説の対立をこねくり回すのではなく、「いまライオンの手足が檻の外にはみ出していないか?」という一貫した物差しを与える構成が、多くの読者に「わかりやすい」と評価される最大の要因です。