「穴が空いていないのに黒く見える」という現象の背景には、歯の精密な二層構造が深く関係している。歯の最表層を覆うエナメル質は人体で最も硬い組織であり、半透明のガラスのような性質を持つ。一方で、そのすぐ内側にある象牙質は黄色味を帯びており、エナメル質に比べて柔らかく酸に弱い。
虫歯菌(ミュータンス菌など)がエナメル質の微小なスリットや噛み合わせの溝から侵入すると、硬いエナメル質を大きく壊すことなく、内部の柔らかい象牙質へと到達する。すると、象牙質の虫歯が内部進行を起こし、横へ横へとドーム状に広がりながら軟化・変色していく。これが、半透明なエナメル質を透過して変色が黒く浮き出て見える「隠れ虫歯」の正体だ。
外側からは小さな点に見えるか、あるいは完全に無傷に見えるにもかかわらず、内側では空洞化が進んでいる状態は、まさに「中身が腐ったリンゴ」と同じ構造と言える。