著名芸能人が洋画の吹き替えに起用される際、しばしば「話題性優先のキャスティングではないか」という懸念が寄せられがちです。しかし、尾上松也の起用プロセスはそのような安易なプロモーション起用とは一線を画していました。
公式取材記録およびディズニー関係者の証言によると、日本版キャストの選定にあたっては、本国アメリカのウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオによる厳正な審査が実施されました。候補者の肩書きや日本国内での知名度を一切伏せた状態でボイスサンプルと歌唱音源が本国クリエイティブチームに送られ、キャラクターの本質を捉えているか否かのみで判定が行われたのです。
当時、マウイ役に求められた条件は極めて過酷なものでした。
- 巨漢の神話的英雄にふさわしい、低音から中高音まで芯のある太い響き。
- 傲慢でありながら憎めない愛嬌を声のトーンだけで表現できる高い演技力。
- ブロードウェイの第一線で活躍するリン=マニュエル・ミランダが手掛けた、変則的で難度の高いリズムを難なく乗りこなす音楽的素養。
これらの要求水準をハイレベルでクリアしたのが尾上松也でした。主人公モアナ役に抜擢された新星・屋比久知奈のピュアで力強い歌声に対し、どっしりとした包容力と華やかな推進力を添えるパートナーとして、制作陣が全幅の信頼を置いたのも必然の帰結でした。