午前9時の直売所オープンと同時に、静けさは一変する。館内の農産物直売コーナーへとなだれ込む買い物客たちの目当ては、片品村特有の激しい寒暖差が育て上げた高冷地野菜の数々だ。標高600から1000メートルに位置する片品村は、昼夜の気温差が15度を超えることも珍しくない。この過酷な気候こそが、野菜たちに自己防衛としての糖分を極限まで蓄えさせる。
初夏から秋にかけて並ぶ「花咲トマト」や、ずっしりと重みのある「片品高原大根」、そしてみずみずしい甘みを誇るトウモロコシ。カゴいっぱいに買い込む前橋市在住の60代男性は、「スーパーの野菜とは味がまるで違う。ここで買ったトマトを一度食べたら、もう元の生活には戻れないよ」と笑う。生産者の顔写真とともに並ぶ野菜はどれも採れたてそのもの。流通の中抜きではない、土の匂いと生産者の息遣いが直結した売り場には、都市部のオーガニックスーパーにはない圧倒的な生活の強さが宿っている。