料理愛好家や酒場ファンの間で根強く信じられているのが、「朝引き鶏や産地直送の新鮮な鶏肉を選べば生食しても安全」という言説です。しかし、食品微生物学の観点から見れば、これは最も危険な誤解(認知バイアス)と言わざるを得ません。
カンピロバクターは、腐敗菌のように「時間の経過とともに増殖して肉を腐らせる菌」ではなく、健康な生きた鶏の消化管内に最初から常在している菌です。解体処理の工程で腸管から肉の表面へ付着するため、どれほど新鮮な朝引き鶏であっても、むしろ菌が生き生きと活性を保った状態で付着していることになります。つまり、「鮮度が高いこと」と「菌が存在しないこと(無菌)」は全く別の問題なのです。
また、ネット上では「アルコール度数の高い日本酒と一緒に飲めば胃の中で殺菌される」「わさびの抗菌作用で菌が死滅する」といった俗説も見受けられます。しかし、胃酸や薬味程度の抗菌力ではカンピロバクターの感染を阻止することは不可能です。加熱による確実な熱変性(中心温度75℃で1分間以上の加熱、またはこれと同等以上の熱処理)以外に、確実な殺菌手段は存在しないという冷徹な事実を直視する必要があります。