店頭で多くの人が何気なく見過ごしているのが、果実の底部、いわゆる「お尻」の状態です。農家や熟練のバイヤーが梨を品評する際、真っ先に確認するのが梨の選び方とお尻の窪みのバランスです。植物生理学上、梨の果実は枝に近い上部(軸側)よりも、太陽の光と重力の影響を受ける下部(お尻側)に向かって糖分が蓄積する性質を持っています。十分に成熟して糖が行き渡った個体は、果肉が豊かに張り出し、お尻の中央部がキュッと深く窪んだ形状になります。
さらに、購入者を驚かせるのが梨の皮のざらざらと甘さの真相です。幸水や豊水といった赤梨の表面にある無数の斑点は「果点(かてん)」と呼ばれる気孔の痕跡であり、果実を乾燥や病害から守るコルク層でできています。未熟な時期の果点はトゲトゲと尖っており、手触りも粗いザラザラ感が目立ちます。しかし、果実が完熟を迎えて果汁を限界まで抱え込むと、果皮が内側から強く引っ張られて果点が押し広げられ、表面が次第にすべすべとした滑らかな質感へと変化します。
つまり、梨の果点と甘いサインの理由は、果実内部の水分と糖分が限界まで満ちたことで生じる物理的な張りの結果です。「ざらつきが強い方が新鮮で甘い」という俗説は完全な誤解であり、手触りが程よくツルリとして、お尻がふっくらと平らなものこそが、糖度を最大限に蓄えた極上の個体です。