一生に一度の晴れ舞台として伊勢を訪れる旅人にとって、食材の最高峰に触れる体験は何物にも代えがたい。その双璧を成すのが「伊勢海老」と「松阪牛」だ。ランチタイムであっても妥協なく極上の贅を堪能したい場合、内宮の目抜き通り沿いではなく、少し落ち着いた立地にある個室完備の老舗や割烹に目を向けるのが賢明な選択となる。
透明感あふれる身が皿の上で輝く「伊勢海老の刺身」は、噛み締めた瞬間に広がる濃厚な甘みと、特有の弾けるような歯ごたえが圧巻だ。刺身を堪能したあと、頭や殻を使って仕立てられる赤出汁の味噌汁は、海老の味噌から溶け出した芳醇な出汁が五臓六腑に染み渡る。現地取材の中で、ある割烹店主は「伊勢海老の旨さは活きの良さはもちろん、包丁を入れる直前の温度管理とさばく速度で決まる」と語った。昼にこの水準の伊勢海老定食を味わうには、最低でも数日前までの事前予約を必須としている名店を選ぶのが確実だ。
一方、ブランド肉の至宝である松阪牛を和の御膳でいただくなら、老舗精肉店直営の座敷や、完全個室を備えた和食処での昼御膳が外せない。サシの融点が極めて低い松阪牛は、熱々のご飯の上で脂がほんのりと溶け出し、赤身の芳醇な香りと一体化する。大部屋で観光バスの団体客と隣り合わせになる環境では、繊細な霜降りの香りや肉汁の余韻を心ゆくまで味わうことは難しい。個室で供されるすき焼き御膳や牛重を選び、静寂の中で一膳と向き合う時間こそ、大人に許された最高の旅の余白といえる。