副鼻腔炎(蓄膿症)を発症しているとき、なぜ遠く離れているように思える耳にまで炎症が広がるのか。その答えは、鼻の奥にある上咽頭と中耳腔を連絡している「耳管(じかん)」と呼ばれる管の存在にあります。成人で約3.5cm、小児では約2cm前後の長さを持つこの管は、普段は閉じており、嚥下(つばを飲み込む動作)やあくびの瞬間にだけ開いて中耳の内圧を外気圧と等しく保つ換気装置の役割を果たしています。
副鼻腔炎を発症すると、上顎洞や篩骨洞などの空洞に膿が溜まり、鼻腔粘膜全体が激しく腫れ上がります。この炎症が耳管の鼻側開口部(耳管咽頭口)にまで波及すると、粘膜の浮腫によって管そのものが狭窄し、正常な開閉機能を失う耳管機能不全が生じます。換気が遮断された中耳腔は密閉された空間となり、内部の空気が粘膜から吸収されて強力な「陰圧(気圧が低下した状態)」へと傾いていきます。
そこへ決定的な打撃を与えるのが、多くの患者が無意識に行っている「鼻水をすする」という動作です。鼻をすすると鼻咽頭の内圧が一瞬にして極度の陰圧に達し、狭窄していた耳管が無理やりこじ開けられます。その結果、副鼻腔から流れ出た肺炎球菌やインフルエンザ菌(※インフルエンザウイルスとは異なる細菌)、モラクセラ・カタラーリスといった病原菌を含む汚れた鼻汁が、まるでストローで吸い上げられるかのように中耳腔へと逆流します。これが、副鼻腔炎から中耳炎へと病態が連鎖する医学的なメカニズムです。