「黄色い鼻水が出たら風邪の治りかけ」という言説は、日本の家庭内で古くから語り継がれてきました。しかし、耳鼻咽喉科の臨床現場において、この認識は重大な落とし穴になり得ると警鐘が鳴らされています。
そもそも鼻水が黄色や黄緑色に変色し、粘度を増すのはなぜでしょうか。ウイルスや細菌が鼻粘膜に侵入すると、免疫の主力部隊である好中球(白血球の一種)が現場に急行し、病原体を貪食(捕食して分解)します。この好中球には「ミエロペルオキシダーゼ」という緑色を帯びた酵素が含まれており、病原体と戦い終えて死滅した好中球の死骸や破壊された細菌が鼻水に大量に混ざり合うことで、透明だった分泌液が黄色から黄緑色へと変化するのです。
岩野耳鼻咽喉科や老木医院などの専門クリニックが公表している臨床知見によると、風邪の初期症状(ウイルス感染期)では水様性の透明な鼻水が出現し、発症後2〜4日で白血球の動員に伴って粘稠な黄色い鼻水へと変化します。ウイルス性の上気道炎であれば、通常は免疫の働きにより発症後7日〜10日前後で分泌量は減少し、自然に沈静化へ向かいます。
問題は、このタイミングを過ぎても黄色いネバネバした鼻水が止まらない場合です。鼻腔の周囲にある空洞「副鼻腔」の換気口(自然口)が粘膜の腫れで塞がれ、内部に膿が停滞する副鼻腔炎へと悪化しているサインとなります。「副鼻腔炎」と「蓄膿症」はしばしば別物と誤解されますが、医学的には同一の病態を指し、副鼻腔内に膿が蓄積する状態を通称として「蓄膿症」、正式な病名として「急性・慢性副鼻腔炎」と呼びます。