マグロのカマを焼いた際、期待していたジューシーさが消え去り、まるでツナ缶の搾りかすのようにパサパサになってしまう現象には、明確な科学的理由が存在します。マグロのカマがパサつく最大の原因は、身の厚みと骨の構造を無視した急激な強火加熱による「タンパク質の過剰収縮」と「水分の蒸発」です。
魚肉の主成分であるミオシンは50℃前後から熱凝固を始め、60℃を超えるとアクチンが急激に収縮して細胞内の水分を外へと搾り出してしまいます。マグロのカマは中心部に太いエラ骨や頭骨を抱えており、身の厚みが5〜8cmに達することも珍しくありません。早く火を通そうと強火で加熱すると、中心部が温まる前に外側の筋繊維が限界まで収縮し、せっかくの脂分と肉汁(ドリップ)がすべて流れ落ちてしまうのです。
もうひとつの失敗要因である「生臭さ」は、エラやヒレの付け根に密集するマグロのカマの血合いに潜む微小な血の塊が原因です。血液中のヘモグロビンに含まれる鉄分と、不飽和脂肪酸が空気に触れて酸化することで、過酸化脂質とトリメチルアミンが生成されます。これが加熱によって揮発し、特有の嫌な魚臭さとなって立ち上るわけです。つまり、「血塊を残したまま焼く」「中までじっくり火を入れられない強火調理を行う」という2つのトラップが、家庭での失敗を必然的に引き起こしていたと言えます。