記憶障害と見当識障害は、病理学的なダメージが海馬や前頭葉へ及ぶことで顕在化する。最初に失われるのは、数分から数日前の出来事を保持する短期記憶だ。昨日誰と会ったか、昼食に何を食べたかといった直近のエピソードが消え去る。一方で、幼少期の思い出や長年体に染みついた習慣は比較的長く保たれる特徴を持つ。
進行が進むと、時間の感覚や空間の認識を司る機能が損なわれ、見当識障害が表に現れる。「いまが何年何月なのか」「自分がどこにいるのか」「目の前にいる人物が誰なのか」という現実の枠組みが崩れ去っていく。この認識の歪みが、患者自身に猛烈な不安と孤立感をもたらすのだ。