『それいけ!アンパンマン』が1988年10月に放送を開始して以来、山寺宏一氏は35年以上にわたってレギュラー陣の中核を担い続けています。ネット上でも「アンパンマンのキャラ一覧を見ると山寺宏一だらけ」「1人で何役こなしているのか」と頻繁に話題にのぼりますが、実際に氏がこれまでに演じた役柄は、名のある主要キャラクターから単発のゲスト、モブキャラクターまで含めると累計で50役以上に達します。
特筆すべきは、単に演じた役数が多いだけでなく、声質やキャラクター性が完全に独立している点です。たとえば、人間以外の動物である「めいけんチーズ」、小学生のような無邪気さと食いしん坊ぶりを見せる「カバおくん」、浪曲調の独特な語り口で場を盛り上げる「かまめしどん」。これらが同一人物から発せられているとは、事前知識なしに気付くことは極めて困難です。
ひとつの放送回の中で、カバおくんがパンを欲しがり、チーズが鳴いて知らせ、ジャムおじさんがパンを焼き、かまめしどんが登場して騒動を起こす――こうした場面では、「山寺宏一氏が自分自身の声に対して相槌を打ち、会話を成立させる」という、職人技という言葉すら生ぬるい離れ業が日常的に行われています。