ドライカレーとキーマカレーを分ける最大の境界線は、その「誕生した国」と「言葉が指し示す対象」にあります。結論から言えば、キーマカレーはインド伝統の肉料理であり、ドライカレーは近代日本の洋食文化が生み出した創作料理です。
まず「キーマ(Keema / Qeema)」とは、ヒンディー語やウルドゥー語で「細切れ肉」あるいは「挽肉」そのものを意味する言葉です。つまりキーマカレーとは、肉の形状に由来する名称であり、「挽肉を使ったカレー料理全般」を指します。ムガル帝国時代の宮廷料理の流れを汲み、数百年の歴史を持つ正統なインド料理の一角です。
一方のドライカレーは、20世紀初頭の日本で誕生しました。定説となっているのが、日本郵船が運航していた欧州航路の貨客船「三島丸(みしままる)」発祥説です。船の公式記録や当時のコックの手記によると、1911(明治44)年頃、長旅で食欲を落とした一等船客のために、船内厨房の日本人シェフが考案したとされています。揺れる船内でも汁がこぼれず、スパイスの刺激で食欲を増進させる工夫として、汁気を極限まで飛ばした挽肉カレーを銀シャリに添えて提供したのが始まりです。
その後、このレシピは東京・銀座の高級洋食店や宮内庁御用達のホテルへと受け継がれ、日本独自のハイカラな「汁気のない洋食カレー」として定着していきました。語源が「食材の形状」にあるキーマと、「水分がない状態」を表す和製英語のドライ。この成り立ちの違いこそが、すべての差異の出発点となっています。