リスナーが楽曲の冒頭で最も衝撃を受けるのが、「僕が生まれたこの島の空を 僕はどれくらい知っているんだろう」という問いかけです。通常の地域賛歌であれば、故郷の景色の美しさを誇らしげに描写するところですが、本作は徹底して「自らの無知の告白」から幕を開けます。ここにこそ、島人ぬ宝 歌詞の意味の核心があります。
一番の歌詞では「青空の澄み渡る名前」を、二番では「潮の満ち引きや海を巡る風の名前」を、そして三番では「夜空に輝く星座の呼び名」を、主人公は「知らない」と繰り返します。これは、急激な近代化や本土化の荒波の中で、古くからの伝統や自然の機微を忘れかけている現代の沖縄の人々のリアリティを正確に射抜いた表現でした。
教科書に載っている歴史や、テレビの旅番組が切り取るステレオタイプの沖縄ではなく、日常生活の肌感覚の中で「知らぬ間に失われつつある大切なもの」への自覚。比嘉栄昇氏は、誇らしげに胸を張るのではなく、「知らないからこそ、これから大切に見つめ直していきたい」という謙虚な願いを込めました。
そしてサビで高らかに歌われる「でも誰より 誰よりも知っている」というフレーズへ昇華します。名前や学問的な知識は知らなくても、幼い頃から肌に染み付いた島の温もり、人々の笑顔、三線の爪弾き。言葉にできない身体感覚こそが「かけがえのない宝なのだ」という肯定は、島民のみならず、故郷を離れて都会で生きるすべての日本人の郷愁を激しく揺さぶる結果となりました。