ブルームーンを語る上で避けて通れないのが、「できない相談」「叶わぬ恋」という強烈なカクテル言葉です。華やかなすみれ色をまとった美しいカクテルが、なぜこれほど拒絶のニュアンスを帯びているのか、その背景には言語文化とカクテルレシピの構造という2つの決定的な理由が存在します。
第一の理由は、英語圏の伝統的な慣用句である「once in a blue moon」(青い月を見るほど滅多にない、あり得ないこと)に由来する点です。天文学上、数年に一度だけひと月に2回満月が訪れる現象をブルームーンと呼びますが、大気中の塵などの影響で月が実際に青く見える現象は天変地異でも起きない限り極めて稀です。ここから転じて「あり得ない相談=できない相談」「実現不可能な願い」という意味が定着しました。
第二の理由は、使用されるリキュール「パルフェタムール(Parfait Amour)」の持つ意味との対比にあります。フランス語で「完全なる愛」を意味するこの甘美なリキュールに、ドライ・ジンと酸味の強いレモンジュースを合わせることで、「完全な愛を冷ます」「愛を拒絶する」という詩的な解釈が生まれたとされています。
恋愛の文脈において、バーで口説いてくる相手に対して女性がブルームーンを注文することで、「あなたのお誘いには応じられません(=できない相談)」という無言のサインを送るという演出は、昭和から平成にかけてのバーカルチャーやトレンディドラマ、小説などを通じて広まり、一種のロマンチックな都市伝説として定着しました。