甲本雅裕を語るうえで、多くの人が強い関心を寄せるのが、ロックバンド「ザ・クロマニヨンズ」(元THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS)のフロントマンである実兄・甲本ヒロトとの兄弟関係です。日本ロック界の伝説的カリスマを兄に持つという事実は、彼が世に出た初期、大きな好奇の目に晒される要因でもありました。
かつてメディアやインタビューで本人が語った回顧録によると、若い頃は「甲本ヒロトの弟」というレッテルを貼られることを極度に警戒し、自らの実力だけで俳優としての居場所を切り拓くことに執念を燃やしていました。オーディションの履歴書に兄の名を書くような行為を一切拒絶し、演劇界の叩き上げとして泥臭い下積みを耐え抜いたエピソードは有名です。
二人の関係性を家族社会学や心理学の視点から分析すると、きわめて理想的な「心理的バウンダリー(境界線)の確立」と「脱同一化(De-identification)」の好例と言えます。親や兄弟が突出した才能や名声を持つ場合、劣等感に苛まれて共依存に陥るか、同じ土俵で張り合って自滅するケースが少なくありません。しかし甲本雅裕は、音楽ではなく「演劇」という全く異なる表現空間を選択し、兄への敬意を抱きつつも私生活とプロの領域を峻別しました。現在では互いのライブや舞台に足を運ぶなど、成熟した大人同士のリスペクトで結ばれた穏やかな兄弟関係を築いています。