漫画表現の枠組みを大きく飛び越え、今日的な政治哲学・社会心理学の文脈からも高く再評価されているのが、ファニー・ヴァレンタイン大統領という人格の造形です。
大統領は、少年期に軍人であった父親が敵国の拷問に耐え、下着の裏に縫い付けたハンカチの日付を守り抜いて獄死したという強烈な原体験を持っています。父親から受け継いだ「愛国心」と「無私無欲の自己犠牲」こそが彼の原動力であり、その言動の動機には私利私欲が一切ありません。大統領自身が作中で放った「我が心と行動に一点の曇りなし……! 全てが『正義』だ」というセリフは、彼の精神的な純度の高さを象徴しています。
大統領が狙っていたのは、聖人の遺体の力を使って、将来アメリカ合衆国に降りかかるであろうあらゆる貧困、天災、戦争といった「害悪」を世界中の他国へ押し付け、自国のみが永遠の繁栄を享受するシステムの構築でした。これは現代社会における「集団的ナルシシズム」や、自国の利益のためなら国際的な共存関係を顧みない「極端なエゴイズム」の病理を、ラブトレインというスタンド能力のメタファーを通じて克明に描き出したものです。
家族社会学や心理的分離の視点から見ても、大統領の行動は「父の遺志に対する絶対的な共依存」に陥り、異なる価値観を持つ他者との健全なバウンダリー(境界線)を見失った悲劇の産物とも読み解けます。読者がジョニィと大統領のどちらが真の正義なのか苦悩させられる理由は、ヴァレンタインの愛国心が、ある意味で美しく、それゆえに最も危険な毒を含んでいたからに他なりません。
こうした多層的な作品世界の楽しみ方について、編集部では以下のような判断基準を提示します。
- 第7部およびD4Cのストーリー体験を強くおすすめできる人:
- 単純な勧善懲悪を超え、思想や国家観が衝突する重厚な人間ドラマを求めている読者。
- 難解な能力バトルを心理戦・物理法則のパズルとして読み解くのが大好きな考察派。
- 洋楽ロックカルチャーへの深いオマージュを感じ取りながら文学的に漫画を味わいたい人。
- 購読や理解において注意・慎重になるべき人:
- 第1部〜第3部のような「明快な悪を正義の拳で爽快に殴り倒す」王道の少年漫画的活劇のみを求める読者。
- 次元移動や物理演出の複雑な描写を直感的に受け止めるのが苦手で、説明のない飛躍にストレスを感じやすい人。