2017年以降、南アフリカのフォールス湾やカリフォルニア沿岸で、海洋研究者たちを震撼させる現象が頻発しました。「海の殺し屋」として恐れられる巨大なホオジロザメの死骸が次々と海岸へ打ち上げられ、そのすべてが「胸びれ付近をきれいに裂かれ、肝臓だけが消失していた」のです。
調査の結果、これは特定のシャチのペアによる捕食であることが判明しました。シャチがサメを襲う際、体当たりをしてサメの体を上下逆さまにひっくり返します。サメ類は上下逆になると神経系が麻痺して動けなくなる「緊張性不動化(トニック・イモビリティ)」という生理的弱点を持っており、シャチはその仕組みを完全に理解して無力化させていたのです。
なぜシャチはサメの肉ではなく「肝臓」だけを欲するのか。その理由は、サメの巨大な肝臓が高エネルギーな脂肪分(スクアレンなど)の塊だからです。サメの筋肉には尿素が多く含まれ硬いうえ、皮膚はヤスリ状で歯を痛めます。シャチは最も栄養効率が高くジューシーな肝臓だけを外科手術のような精密さで選び取り、残りの部位には目もくれずに去っていきます。この徹底したエネルギー効率への執着こそ、シャチが知能生物である証左といえます。