平井堅が『ノンフィクション』を手掛ける契機となったのは、2016年末から2017年初頭にかけて彼を襲ったプライベートでの致命的な喪失でした。当時のインタビューや音楽番組の密着取材において、平井本人は「自分の身近にいた、同じ夢を追っていた友人が自ら命を絶った」という衝撃の事実を公表しています。キャリアを重ね、音楽業界の荒波をくぐり抜けてきた彼にとって、その人物は利害関係を超えて本音をぶつけ合える数少ない理解者でした。
音楽関係者の証言によると、当時の平井は深い失意に沈み、新曲の制作に取り掛かる気力を著しく奪われていたといいます。テレビドラマ『小さな巨人』のタイアップオファーが届いた際、ドラマ側から求められたのは「逆境に立ち向かう男たちの戦い」や「組織の葛藤を乗り越える力強さ」でした。しかし、平井が提出したデモテープは、耳当たりの良いポジティブなメッセージとは対極に位置する、身を切るような哀歌でした。
「綺麗な言葉でお茶を濁すような歌は、絶対に歌えなかった」。平井は後に音楽誌のインタビューでそう振り返っています。亡くなった友人のプライバシーを守るため、その人物の名前や詳細なプロフィールは現在に至るまで一切公表されていません。一部のネット上では「事務所関係者ではないか」「インディーズ時代のバンド仲間ではないか」といった憶測が飛び交いましたが、平井本人は友人個人を消費する報道を拒絶し、ひたすら「ひとりの尊い命が失われた痛み」を音楽へと昇華させることに徹しました。