インターネット上の掲示板やSNSでは、映画のポスタービジュアルや予告編の印象から「年上女性と男子高校生の許されざる純愛映画」という受け取られ方をされるケースが少なくありません。しかし、これは作品の構造を読み違えた代表的な誤解です。
本作の核は「恋愛」ではなく、「家族によって負わされた精神的トラウマからの脱却」です。榊さんが直達に対して抱いていたのは、異性としてのときめき以前に、「自分の人生を狂わせた男の息子」に対する複雑怪奇な情動でした。憎みたいのに、目の前にいる直達は純粋で、何の罪もない。その矛盾した葛藤を抱え続けること自体が、彼女自身の心をさらに摩耗させていたのです。
また、本作に決定的な明るさと清涼感を与えているのが、スピッツが書き下ろした主題歌『ときめきpart1』の存在です。この楽曲について、草野マサムネは制作時のコメント等で作品の持つピュアなエネルギーと再生への願いに触れています。一見すると可愛らしいラブソングのように響くこの曲がエンドロールで流れるとき、観客は「ときめき」という言葉が単なる恋愛感情ではなく、「止まっていた心が再び動き出す瞬間」の鼓動を指していることに気づかされます。
さらに、映画を語る上で欠かせないのがロケーションの力です。千葉県の茂原市やいすみ鉄道沿線、神奈川県の三浦・横須賀エリアなどで敢行されたロケ撮影は、物語のキーとなる「水」のメタファーを視覚的に補強しました。雨に濡れる駅前ロータリー、シェアハウスの庭を濡らす雫、そして広大な海へと開けていく景観の移ろいは、登場人物たちの閉ざされた内面がゆっくりと外界へ解き放たれていく心理変化と完全に同期しています。