筑前町立大刀洗平和記念館が国内外の歴史研究者や旅行者から極めて高い注目を集めている最大の要因は、世界でただ1機しか現存しない「零式艦上戦闘機三二型(零戦三二型)」の実機展示にあります。南太平洋のマーシャル諸島タロア島で発見され、奇跡的な修復を経て同館に収容されたこの機体は、主翼の両端を50cmずつ切り落とした角型の翼端形状が最大の特徴です。主翼形状の変更により急降下性能や横転性能の向上を図った過渡期の設計思想を、現代にそのまま伝える唯一無二の産業遺産といえます。
さらに同館には、1945年(昭和20年)に博多湾へ不時着水し、約50年後の1996年に引き揚げられた「九七式戦闘機」も展示されています。こちらも世界で唯一現存する実機であり、かつて陸軍の主力戦闘機として空を翔けた鋼の質感と、海底で半世紀を眠り続けた生々しい痕跡を間近で観察できます。
これらの貴重な機体がこの地に集められた背景には、かつてこの一帯に広がっていた「大刀洗陸軍飛行場」の壮大な歴史が存在します。大正8年(1919年)に完成した同飛行場は、滑走路や関連施設を含めて広大な敷地を有し、最盛期には「東洋一の軍用飛行場」と称されました。航空兵の教育・訓練拠点、新型機の実験場、そして大陸へ渡る航空路の重要中継基地として機能していましたが、太平洋戦争末期には米軍による徹底的な大空襲を受け壊滅。その跡地と記憶を未来に繋ぐ象徴として、現在の平和記念館が建立されたのです。