西洋のアラビア・ギリシャ由来の学術名とは対照的に、日本列島で暮らしてきた先人たちもまた、独自の感性で夜空を見つめ、暮らしに根ざした豊かな名前を星々に授けてきました。それが星の和名と日本の伝統名です。
代表的な事例がおうし座のプレアデス星団を指す「昴(すばる)」です。『古事記』や『万葉集』にも「すまる(統ばる=一つにまとまる)」という古語で記されており、糸で束ねた美しい玉の首飾りに見立てられていました。農民にとっては春の種まきや秋の収穫期を計る天の時計であり、古代日本人の生活基盤と直結した言葉でした。
また、初夏の宵空にオレンジ色に輝くうしかい座のアークトゥルスは、麦の刈り入れ時期に重なることから「麦星(むぎぼし)」と呼ばれました。さらに興味深いのは、オリオン座の赤色巨星ベテルギウスと青白く輝くリゲルに対する呼称です。岐阜県をはじめとする漁村・農村地域では、ベテルギウスの赤い光を平家の赤旗に見立てて「平家星」、リゲルの白い光を源氏の白旗に見立てて「源氏星」と呼び習わしました。夜空のコントラストに武家社会の源平合戦を投影した、日本独自の歴史情緒あふれるネーミングです。
日本語には、夜空の情景を切り取った星にまつわる綺麗な言葉が数多く残されています。
- 星月夜(ほしづきよ):月が出ていない夜でも、無数の星の光が満ちて月夜のように明るく感じられる夜。
- 星合(ほしあい):七夕の夜、年に一度だけ織姫と彦星が出会う瞬間の奇跡。
- 綺羅星(きらぼし):夜空に燦然と輝く星々。転じて、優れた才能を持つ人物が一堂に会する様子。
- 星宿(せいしゅく):古来の天文学で天球を分割した星の宿り、運命を司る星々の配置。
これらの語彙は、単なる天体のラベルにとどまらず、自然現象の機微を愛でてきた日本文化の精神性を凝縮した言葉の遺産といえます。