世間が最も抱いた疑問は、「契約金数千万円から億円単位の報酬を得ているトップアスリートが、なぜ違法賭博という危険極まりない泥沼に堕ちてしまったのか」という点でした。綿密な聞き取り調査と当時の内部資料から浮かび上がる巨人賭博事件の理由は、プロ野球界特有の異常な組織風土と日常化した「小遣い稼ぎ」感覚にありました。
当時のジャイアンツ二軍ロッカーや遠征先宿舎では、日常的に「麻雀」やトランプの「ポーカー」「大富豪」、さらにはカードゲーム「バカラ」に現金を賭ける賭博が常態化していました。百円単位の遊びが次第に数万、数十万円単位のエスカレーションを見せ、金銭感覚が麻痺していったプロセスは複数の手記でも語られています。
さらに火に油を注いだのが、事件の余波として表面化した巨人声出し祝儀問題の背景です。公式戦の試合前、円陣を組んで士気を高める「声出し」を担当した選手に対し、試合に勝利した場合は他の選手から1人あたり5,000円前後の「祝儀(勝敗金)」が支払われ、敗北した場合は声出し役が全員へ規定額を支払うというルールが長年にわたって慣例化していました。
球団側は「ゲン担ぎの範囲であり野球協約が禁じる敗退行為(八百長)とは無関係」と主張したものの、試合の勝敗に現金が直接絡むシステムがベンチ内部で日常的に機能していた事実は、選手たちから「野球でカネを動かすことへの倫理的抵抗」を決定的に麻痺させていました。このグレーゾーンの日常こそが、暴力団関係者が入り込む巨大な隙間を生み出す温床となったのです。