「川崎のパン屋で今、一番話題を呼んでいるのはどこなのか」――。この問いに対し、ネット上の評判と地元住民の実感には興味深い温度差が存在します。駅直結のメガ商業施設で連日長蛇の列を作る有名ブランドがある一方、地元住民が「本当は誰にも教えたくない」と足繁く通うのは、駅から少し離れた路地裏や住宅街の工房です。
商業施設の核として君臨するのは、ラゾーナ川崎プラザやアトレ川崎に居を構える大型ベーカリーです。厳選されたフランス産発酵バターの香りをフロア一帯に漂わせる「メゾンカイザー」や、洗練されたデリブレッドを展開するセレクト業態は、手土産需要やオフィスワーカーのランチ需要を盤石に掴んでいます。しかし、現場の熱気はそれだけに留まりません。
取材班が注目したのは、川崎区や幸区の生活圏に根付くインディペンデントなベーカリーの台頭です。早朝から小麦の香りを立ち上らせる小さな路面店では、店主が一人で仕込みから焼成までを手がけ、正午を待たずにトレーが空になる光景が日常茶飯事となっています。商業施設が誇る圧倒的な回転力と、個人工房が貫く手仕事へのこだわり。現在の川崎は、この二大潮流が互いに刺激し合う極めて刺激的なフェーズに突入しています。