熱中症の怖さは、身体が発熱の負荷に耐えきれなくなる境界線を越えた瞬間、加速度的に悪化する点にあります。屋外で直射日光を浴びて発症する日射病の初期症状としては、まず「顔のほてり」「めまい」「一時的な立ちくらみ」が現れます。これは脳への血流が瞬間的に減少するために起こる防衛反応(熱失神)です。同時に、ふくらはぎの筋肉がピクピクと痙攣する「こむら返り」が起きることも珍しくありません。
これらのサインを「ちょっと暑さにやられただけだ」と我慢して活動を続けると、病態は速やかにII度(中等症)へと移行します。この段階になると、ズキズキとした強い頭痛、激しい吐き気、嘔吐、全身のだるさ(倦怠感)に襲われます。体内では著しい脱水と電解質の喪失が進み、循環不全が引き起こされています。
実際に、マラソンや屋外フェスなどの救急救護所で活動する医療スタッフの手記には、搬送者の証言として『頭痛が始まった時は風邪か熱気にあてられた程度だと思い、休憩を取らなかった』『気付いたときには視界が白くなり、自力で立ち上がれなくなっていた』といった言葉が数多く記録されています。本人に危機感が薄いまま、脳内の視床下部にある体温調節中枢がオーバーヒートを起こしていくのが、日射病・熱中症の典型的な罠です。
最も危険なIII度(熱射病)の兆候は、皮膚の異変と意識障害です。体内の水分が尽き、発熱を抑えるための発汗機能すら停止すると、皮膚は熱く乾き、触れると火傷しそうなほど高熱になります。受け答えが曖昧になる、意味不明な言葉を発する、周囲の状況が認識できなくなるといった中枢神経障害が現れた場合、死亡率は急激に跳ね上がります。