頭蓋骨の内部は容積が約1,400〜1,500mlで固定されており、その中を「脳実質(約80%)」「血液(約10%)」「脳脊髄液(約10%)」の3者が満たしています。これを規定するのが神経内科・脳神経外科の基本原則である「モンロー・ケリーの法則(Monro-Kellie hypothesis)」です。頭蓋内という密閉された硬い容器のなかで、どれか1つの体積が増加した場合、他の要素が容積を減らして圧力を一定(正常値:70〜150mmH2Oまたは約5〜15mmHg)に保とうとします。しかし、代償の限界を超えて圧力が20mmHg以上に持続上昇した状態が頭蓋内圧亢進です。
この代償機構が破綻した際に現れるのが、古くから臨床で警戒される頭蓋内圧亢進の3大徴候です。
第1の徴候が、頭蓋内圧亢進症における頭痛の特徴です。典型的な現れ方は「早朝頭痛(early morning headache)」と呼ばれます。睡眠中は呼吸が浅くなることで血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇し、脳血管が拡張して頭蓋内血流量が増加します。さらに横臥位(寝ている姿勢)では頭部からの静脈還流が減少するため、明け方から起床時にかけて頭蓋内圧がピークに達します。目覚めとともに襲い来る後頭部や頭部全体の締め付けられるような激痛は、一般的な緊張型頭痛や片頭痛とは明らかに一線を画す危険なサインです。
第2の徴候は、頭蓋内圧亢進に伴う噴出性嘔吐です。一般的な消化器疾患による嘔吐とは異なり、事前の強い吐き気やムカムカ感(悪心)がほとんどないまま、突然胃の内容物が前方に噴水のように激しく飛び出すのが特徴です。これは頭蓋内圧の上昇が、第4脳室底に位置する延髄の嘔吐中枢を物理的・直接的に刺激するために起こります。朝起きて頭痛とともに唐突に嘔吐した場合は、消化器ではなく脳の異常を疑う必要があります。
第3の徴候が、うっ血乳頭による視覚異常です。頭蓋内圧の上昇は、視神経を包む視神経鞘(くも膜下腔と連続している空間)を通じて眼球後部へとダイレクトに伝播します。その結果、網膜中心静脈の還流が物理的に阻害され、眼底検査において視神経乳頭の浮腫(腫れ)や境界の不鮮明化、出血が観察されます。患者本人は「視界が白くかすむ(一過性黒内障)」「視野の一部が欠ける」「物が二重に見える(外転神経麻痺に伴う複視)」といった症状を自覚します。うっ血乳頭は発症から数日かけて進行することが多いため、これが見られた時点で病態が慢性化・高度化している証左となります。