『夜明けのスキャット』の発売年は1969年(昭和44年)3月10日。しかし、この曲は当初、レコードとして全国発売する予定で作られた楽曲ではありませんでした。
発端は、作曲家・いずみたくが手がけていた深夜ラジオ番組『夜のバラード』(TBSラジオ)のオープニングテーマ(BGM)の制作でした。番組の雰囲気に合わせ、夜から朝へと移り変わる静寂を表現するために依頼されたのが、童謡歌手として活動していた安田章子、のちの由紀さおりでした。当時、本名名義でのポップス歌手活動に行き詰まりを感じていた彼女は、確かな声楽の基礎と澄んだソプラノボイスを買われ、スタジオに呼ばれます。
用意されていたのは歌詞ではなく、メロディラインと「ルー・ルールー」というスキャットの指示のみでした。番組のオープニングやジングルとしてオンエアされると、深夜にラジオを聴いていた受験生や若者たちの間で「あの美しいスキャットを歌っているのは誰なのか」「もう一度フルサイズで聴きたい」とニッポン放送の『オールナイトニッポン』をはじめとする各局やレコード会社へリクエスト・問い合わせが殺到する事態に発展します。
この異例の反響を受け、東芝音楽工業(当時)は急遽シングル盤としてのリリースを決定。これが、歌詞を持たないスキャットのまま録音された音源が世に出る決定的な瞬間でした。