ネット掲示板やSNSで「行徳は治安が悪い」と囁かれ続ける背景には、歴史的経緯と心理的な先入観が複雑に絡み合っています。最大の要因として挙げられるのが、2007年に発生した英国人女性殺害事件の逃走犯が潜伏していた街としての強烈な報道イメージです。連日メディアで行徳のマンションや路地が全国中継されたことで、「犯罪者が身を潜めるアングラな街」という負のレッテルが定着してしまいました。
さらに歴史を遡れば、1970年代から1980年代にかけての急速なベッドタウン化に伴い、ダンプカーの往来や残土処理を巡るトラブルが社会問題化した経緯があります。市川市当局が1980年に通称「残土条例」を制定し、土砂を2.5メートル以上に積み上げる規制を敷いたものの、一部業者との摩擦が報じられた記憶が、年配層のネガティブな街の印象を補強してきました。
しかし、千葉県警察が公表している近年の犯罪統計データを精査すると、まったく異なる実態が浮かび上がります。行徳警察署管内における凶悪犯罪(強盗・殺人など)の発生件数は極めて低く、繁華街を抱える船橋駅周辺や柏駅周辺と比較しても平穏な数値を維持しています。現在の犯罪構成の約7割を占めているのは「自転車盗」や「置き引き」といった非侵入窃盗です。施錠の徹底など最低限の自衛策を講じていれば、過剰に怯える治安状況ではありません。
また、行徳はインドやアジア圏をはじめとする多国籍な住民が多く暮らす街としても知られています。「外国人が多くて不安」という声がネット上の一部で見られますが、後述する地域交流イベントの定着に見られるように、多文化共生が進む成熟したコミュニティが形成されており、いたずらに不安を煽る書き込みは実態を反映していません。