「生きろ、そなたは美しい」というセリフが登場するのは、物語の序盤から中盤にかけての緊迫した場面です。
タタラ場に単身乗り込み、エボシ御前を討とうとして返り討ちに遭いかけたサン。アシタカは両者の激突を身を挺して止め、タタラ場の女たちが誤って放った銃弾に背中を撃ち抜かれながらも、サンを抱えてタタラ場を脱出します。しかし、瀕死のアシタカに対し、警戒心を剥き出しにしたサンは短剣を喉元に突きつけ、「なぜ邪魔をした!死ぬ前に答えろ!」と詰め寄ります。
死の淵に立たされたアシタカが、震える息の下から発した言葉が次のセリフでした。
「そなたを死なせたくなかった……生きろ」
「そなたは美しい」
人間を憎み、己を山犬と信じるサンにとって、人間から「美しい」と肯定されることは想定外の衝撃でした。狼狽したサンは反射的に飛び退き、怒りと戸惑いのあまり威嚇の唸り声を上げます。
ここでアシタカが述べた「美しい」とは、単なる顔立ちや姿形を指したものではありません。憎悪と殺意に満ちた過酷な戦場の中で、森と神々を守るために命を燃やすサンの「生命としての純度の高さと気高さ」を直感したからこその告白でした。理不尽な死の呪いを受け入れながらも、他者の生の尊厳を見出したアシタカの人間性が凝縮された瞬間です。