爪自体は硬いケラチンというタンパク質でできた半透明の板であり、爪そのものが黒い色素を生成することはありません。爪に現れる黒や褐色の縦線の多くは、爪が作られる根元の組織である「爪母(そうぼ)」に存在するメラノサイト(色素細胞)が活性化し、作られたメラニン色素が爪甲に帯状に沈着しながら前方へ押し出されることで生じます。この現象を医学的に爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)と呼びます。
では、なぜメラノサイトが突如として活性化するのでしょうか。爪の黒い線の原因は、外的な物理的刺激(靴による圧迫、爪噛み、スポーツによる衝撃)、加齢、妊娠に伴うホルモンバランスの変化、抗がん剤や抗生剤などの薬剤性影響、全身性疾患(アジソン病やビタミンB12欠乏症)など多岐にわたります。さらに、単に爪の真下で血管が破綻して起こる爪下出血と血腫も、見た目が黒褐色に見える代表的な要因です。
問題は、「爪の黒い線放置するとどうなるのか」という点です。原因が良性のほくろ(母斑細胞母斑)や一過性の刺激であれば、年単位で変化がないか、刺激が消えるとともに薄くなるケースもあります。しかし、原因が悪性黒色腫であった場合、放置すれば病巣は爪母から周囲の皮膚、さらにはリンパ節や他臓器へと急速に転移します。メラノーマは初期段階であれば手術による完全切除で高い生存率が見込めますが、進行すると極めて治療難易度が高まるため、初期微候の見極めが生死を分ける分岐点となります。