スマートデイズが倒産した2018年当時、業界の専門家や法律関係者の大半は「被害者たちが助かる道はない。自己破産するしかない」と絶望視していました。日本の司法において、契約書に自ら署名・捺印した以上、「騙された」と主張しても金融機関からの借入金を免除することは法的に不可能に近いと考えられていたからです。
しかし、この常識は被害者弁護団の執念と司法の画期的な判断によって覆ることになります。
前代未聞の解決策「代物弁済(だいぶつべんさい)」スキームの全貌
2020年3月25日、東京地裁における民事調停において、日本金融史上に残る歴史的合意が成立しました。シェアハウス関連の融資を受けたオーナー約250人に対し、借金総額約440億円を事実上全額帳消しにする合意が交わされたのです。
このとき用いられたのが代物弁済という法的手続きです。仕組みは次の通りです。
オーナーが所有するシェアハウスの土地と建物を、銀行が指定する不動産ファンド等へ名義譲渡し、その引き換えとして、スルガ銀行に残っているローン債務全額を相殺・免除しました。これにより、「物件を手放す代わりに、億単位の借金が完全にゼロになる」という実質的な借金帳消しが実現しました。
その後、第2陣・第3陣と調停手続きは進められ、2021年から2022年にかけて、シェアハウス被害者の債務問題はほぼ全面的な解決(債務免除)へと至りました。銀行側がここまで踏み込まざるを得なかった背景には、金融庁からの極めて重い業務停止命令と、これ以上裁判で不正融資の関与が追及され続ければ銀行免許の維持すら危うくなるという危機感がありました。
【取材証言】「借金は消えたが、失ったものは戻らない」被害者の生々しい現在
借金が帳消しになったことで、被害者たちは完全に元の平穏な生活に戻れたのでしょうか。現場の生の声を取材すると、単純なハッピーエンドとは言えない重い現実が浮き彫りになります。
被害者の一人である都内勤務の50代男性は、当時の心境をこう振り返ります。
「調停が成立し、1億2,000万円の借金がチャラになった瞬間は、心臓の鼓動が止まるほど安堵しました。しかし、購入時に諸費用として支払った現金数百万円は一切戻りませんでした。何より、家族を裏切っていたという罪悪感、夜も眠れずに精神科へ通った3年間の地獄のような時間は、お金では取り戻せません」
さらに、債務免除によって生じる「債務免除益」に対する課税問題への対応や、数年間にわたって信用情報機関に異動情報(いわゆるブラックリスト)に近い履歴が残ったことで、子どもの教育ローンや自宅の住み替えが制限されるなど、事件の爪痕は生活の各所に影を落とし続けました。