世間が最も強い好奇心を抱くトピックの一つが「徳川家の資産状況」です。インターネット上では「徳川埋蔵金は本当にあるのか」「今も広大な山林や土地から莫大な不労所得を得ているのではないか」といった憶測が絶えません。しかし、近現代の経済史を紐解くと、全く異なる実態が浮かび上がります。
第二次世界大戦の敗戦に伴い、GHQの指令によって華族制度は廃止されました。さらに農地改革と、最高税率85パーセントを超えた過酷な財産税の賦課により、旧公爵家であった徳川宗家も東京・千駄ヶ谷の広大な本邸をはじめとする大半の私有財産を手放さざるを得なくなりました。華族時代の富は戦後復興の過程で実質的に解体されたのです。
その中で、先祖伝来の国宝・重要文化財が散逸する危機に直面した第18代当主・恒孝氏は、私財を投じて2003年に公益財団法人徳川記念財団を設立しました。宗家に伝わる歴代将軍の遺愛品や古文書など数万点に及ぶ貴重な宝物を一括して財団に寄贈し、「私物」から「国民共有の文化遺産」へと転換させたのです。現在、これらの文化財から得られる収益は財団の維持管理・研究展示費用に充てられており、当主個人の私腹を肥やすためのものではありません。
ネット上でしばしば混同される「33億円豪邸」といった桁違いの個人資産の噂は、徳川宗家そのものの資産ではなく、後述するタレントの家庭環境にまつわる個別エピソードが一人歩きした結果に過ぎません。宗家現当主の財政基盤は、堅実なプロフェッショナルワークと公益法人の適正な運営の上に成り立っています。