国民的知名度を誇る「オラに力を」というフレーズですが、原作コミックス全42巻において孫悟空が元気玉を作る際にこの言葉を発した場面は一度もありません。多くの読者が「絶対に本編で言っていたはずだ」と思い込んでいる現象は、ポピュラーカルチャーにおける一種のマンデラ効果(集合的な記憶の食い違い)の代表例といえます。
原作で悟空が一貫して用いているのは「オラに元気をわけてくれ」という表現です。悟空の語彙は非常に素朴で、相手に何かを強制したり大仰な命令を下したりすることは滅多にありません。必死の局面であっても「ほんのすこしずつでいい」「たのむ」と謙虚に呼びかけるのが悟空本来のキャラクター造形であり、この言い回しの差異にこそ作品の神髄が隠されています。