函館市内に数ある坂道の中で、なぜ八幡坂だけがこれほどまでに別格の扱いを受けるのか。その理由は、函館山麓の扇状地地形と、近代の都市計画が偶然にも完璧な調和を果たした「視覚的シンメトリー」にあります。
坂の頂上付近に立つと、約270メートルにわたって緩やかに下るストレートな坂道、美しく手入れされた街路樹、そしてその消失点の真上に函館港と青函連絡船記念館「摩周丸」の船影が美しく収まります。海と空、人工の石畳と歴史的船舶が織りなすこのレイヤー構造は、国内のどの港湾都市にも見られない唯一無二の景観美です。
かつてこの坂の頂上には、現在の谷地頭町へ移転する前(1880年の大火前)に「函館八幡宮」が鎮座していたことから「八幡坂」と名付けられました。また、昭和から平成にかけて放送されたライオンの台所用洗剤「チャーミーグリーン」のテレビCMにおいて、老夫婦が手をつないでスキップする象徴的な舞台として起用されたことで、「チャーミーグリーンの坂」という愛称で全国的な知名度を獲得しました。世代を超えて人々の記憶に刻まれたロマンチックな物語性が、この場所を単なる道路以上の情緒ある景勝地へと押し上げています。