AIによる自動化と即時配達が日常化した2026年、外食産業の多くは「いかに早く、手軽にカロリーを摂取できるか」の競争に明け暮れていた。だが、振り切れた振り子は必ず逆へと戻る。過度な効率化に疲弊した人々が今、熱狂的な眼差しを向けているのが、手間と時間を惜しみなく注ぎ込む手仕事の空間だ。
席数はわずかカウンター8席。メニューは店主がその日の朝に仕入れた素材を見て決めるおまかせのみ。1回の食事に2時間以上を費やす贅沢を求めて、予約台帳は数ヶ月先まで埋まり続けている。手軽さの対極にあるこの不便さこそが、今もっとも価値ある体験として再評価されているのだ。