エラボトックスのトラブルは、見た目の輪郭変化だけにとどまりません。顔面の複雑な筋膜構造や表情筋の走行を把握していない施術によって、日常生活に支障をきたす機能障害が発生するケースも報告されています。
取材現場や相談窓口に寄せられたエラボトックス失敗事例を精査すると、主に以下の3つの重篤なリスクに分類されます。
第一に、笑顔が不自然になる原因として頻発するのが「薬剤の誤拡散」です。咬筋のすぐ前側には、口角を外側に引き上げる「笑筋」や「大頬骨筋」が走行しています。注入層が浅すぎたり、推奨注入ポイントよりも前方に打たれたりすると、薬剤が笑筋にまで浸潤。その結果、笑おうとしても口角が片方だけ上がらない、あるいは引きつったような歪な表情固定が引き起こされます。
第二に挙げられるのが、咬筋の萎縮と左右差のリスクです。人間の顔や骨格はもともと完全な左右対称ではありません。片側だけで物を噛む癖(偏咀嚼)がある場合、左右で咬筋の発達具合や厚みが大きく異なります。事前の触診で左右の筋体積を正確に測定せず、左右同量の薬剤を機械的に注入してしまうと、元々小さかった側が極端にこけたり、左右のフェイスラインの歪みが強調されたりします。
第三に、噛む力の低下と元に戻る期間に関する機能的トラブルです。咬筋の働きが強くブロックされると、硬い肉や繊維質の野菜を噛み砕く際に顎がひどく疲労し、強い違和感を覚えます。通常、日常生活に支障をきたす筋力低下は注入後約2週間〜1ヶ月で代償筋(側頭筋など)が働き始めて落ち着きますが、製剤の効果が完全に切れて筋肉が元のボリュームに戻るまでには約3〜6ヶ月の時間を要します。不可逆な後遺症ではないものの、数ヶ月間ストレスを抱え続ける精神的負担は決して軽視できません。