安美錦の現役生活を語るうえで避けて通れないのが、度重なる凄まじい大怪我との闘いです。彼の引退理由となったのは、2019年名古屋場所で発症した右膝半月板損傷でした。当時40歳、すでに幕内通算在位記録で歴代上位に名を連ねていたベテランに対し、身体は非情な限界を突きつけていました。
安美錦の膝の怪我は、現役中盤から過酷を極めていました。左膝前十字靭帯断裂、さらには右膝の前十字靭帯不全断裂と、両足の靭帯が機能していない状態に陥りながらも、強靭なテーピングと研ぎ澄まされた技術力で土俵に立ち続けました。当時の特番インタビューや自著・手記で語られた「膝がグラグラして感覚がない日もあったが、土俵に上がれば言い訳はできない」という生の告白は、ファンの涙を誘いました。最後は自力で踏ん張りが利かなくなるまで相撲道に身を捧げた末の、誇り高き引退決断でした。
安美錦の経歴と通算成績を俯瞰すると、数字以上の重みが伝わってきます。青森県深浦町から上京し、伊勢ヶ濱部屋出身として名門の看板を背負い、兄の元幕内・安壮富士とともに兄弟関取として切磋琢磨した日々。小兵ながらも大型力士を翻弄した多彩な技の数々は、相撲史に燦然と輝く財産となっています。