美術小説の旗手として名高い原田マハだが、日常の食卓や人情を描く手腕においても文芸界で唯一無二の存在感を放つ。出版業界においても、本作は「食べる=生きる」という原点的なテーマを力強く描き出した傑作として高く評価されてきた。
過剰な装飾を削ぎ落とした文章でありながら、登場人物が口にするスープの一滴、米の一粒までが瑞々しく描かれる。食を通じて人と人が繋がり、魂の救済へと向かうプロセスは、効率や合理性が優先される現代社会に対する静かな異議申し立てとも受け取れる。言葉の力を信じ抜く著者の真摯な姿勢が、物語の端々から伝わってくる。