蟲の呼吸における最大の特徴の一つが、他の呼吸法で用いられる「第〇の型」という呼称を用いず、すべて「〇ノ舞」と名付けられている点です。舞うように軽やかで予測不能なフットワークと、昆虫の生態・攻撃特性を模した鋭利な刺突がその神髄です。ここでは作中で披露された全技を詳しく解説します。
1. 蝶ノ舞 戯れ(ちょうのまい たわむれ)
蝶のようにふわりと宙へ舞い上がり、相手の視覚を惑わせながら急降下して連続で毒を打ち込む技。那田蜘蛛山で蜘蛛の能力を持つ鬼(累の姉役)に対して放たれ、一瞬の交差で致死量の毒を注入しました。攻撃を受けた鬼自身が「痛くない、刺された感覚すらない」と錯覚するほどの超絶的な初速と軽やかさを誇ります。
2. 蜂牙ノ舞 靡き靡き(ほうがのまい なびきなびき)
蜂が針を刺すように、直線的な超スピードで間合いを詰め、刃の切っ先で一点を穿つ刺突技。那田蜘蛛山の父蜘蛛の巨躯や、童磨戦の序盤でも繰り出されました。足の親指から床を蹴り上げる爆発的な推進力によって、鬼が視認することすら困難な速度で繰り出されます。
3. 蜻蛉ノ舞 複眼六角(せいれいのもい ふくがんろっかく)
トンボの複眼のごとく、六箇所(六角)の急所へ瞬時に連続刺突を叩き込み、大量の毒を体内に浸透させる大技。童磨戦で使用され、頑強な上弦の鬼の肉体であっても一度に大量の薬毒を流し込むことで、神経伝達を麻痺させ内部組織を激しく破壊します。
4. 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹(ごこうのまい ひゃくそくじゃばら)
ムカデが地を這うような複雑かつ激しい四方八方へのステップにより、足音で周囲の空間を揺るがし、敵に標的を絞らせない錯乱技。地面が砕けるほどの踏み込みから繰り出されるこの突進は、上弦の弐である童磨ですら「速すぎて動きが読めない」と驚愕させ、その首を正確に貫通して部屋の天井まで突き飛ばしました。
蟲柱の日輪刀:刀鍛冶・鉄地河原鉄珍が手がけた特殊ギミック
蟲の呼吸を成立させるために不可欠なのが、刀鍛冶の里長である鉄地河原鉄珍(てっちかわら てっちん)が打ち出した特異な日輪刀です。刃先と鍔元にのみ刃があり、刀身の大部分が細い棒状(針状)に削ぎ落とされています。これにより刀自体の重量を極限まで減らし、刺突速度を飛躍的に高めています。
さらに重要なのが鞘の内部構造です。しのぶの鞘には独自の調合装置が組み込まれており、刀を納刀してカチリと音を鳴らすたびに、鬼の個体特性や戦闘状況に合わせて毒の配合・濃度を瞬時に切り替えることが可能です。鬼が毒に対する抗体や分解能力を発揮しても、次の一撃で別の毒性を注入できる極めて高度なケミカル・ウェポンシステムとなっています。