1990年代以降、再販された海外NES版やバーチャルコンソール、そして現在の復刻環境において、ラスボスの座に君臨しているのはマイク・タイソンではなく「ミスター・ドリーム」という白人ボクサーです。この交代劇を巡っては、インターネット上で長年「タイソンが事件を起こして逮捕されたため、任天堂が急遽ゲームから抹消した」という説がまことしやかに語られてきました。しかし、報道各社の記録および関係者の証言を辿ると、この説は明確な事実誤認であることが分かります。
交代劇の直接的な原因は、「任天堂とマイク・タイソンとの間で結ばれていた3年間の肖像権ライセンス契約の満了」です。
任天堂の米国法人であるNintendo of America(NOA)の元幹部らが後年明かした回想によると、任天堂がタイソンと契約を交わしたのは彼が世界王者に登りつめる直前の1986年頃であり、契約金は当時の相場としても破格の約3年・30万ドル程度であったとされています。しかし、1990年に契約更新の時期を迎えた際、タイソンは同年2月11日の東京ドーム興行においてジェームス・“バスター”・ダグラスにまさかのKO負けを喫し、ヘビー級王座から陥落してしまいます。
当時、すでに莫大なギャランティを要求する大スターとなっていたタイソンに対し、「無敵のチャンピオン」ではなくなったこと、そしてゲーム自体がすでに全世界で数百万本のメガヒットを記録し、タイソンのネームバリューに頼るフェーズを終えていたことから、任天堂は契約を延長しない経営判断を下しました。タイソンが後に法的不祥事によって収監されるのは1992年のことであり、ゲーム内の差し替え決定(1990年)とは時期的に直接の関係がありません。
なお、ミスター・ドリームとタイソンの違いは、グラフィックの顔パーツ、肌の色、キャラクター名、および勝利メッセージのみです。フレーム単位の攻撃判定、アルゴリズムルーチン、体力値、スピードといった内部データは一分の狂いもなく完全に同一であり、タイソン攻略のノウハウはそのままミスター・ドリームに対しても100%通用します。