新札発行に伴い、警察庁や国民生活センターが繰り返し警鐘を鳴らし続けているのが、新札発行に便乗した旧札詐欺の注意喚起です。この犯罪は、単なる知能犯の手口というだけでなく、高齢化が進む日本社会の構造的リスクと密接に結びついています。
日本銀行の推計によると、家計が金融機関に預けずに自宅で保管しているいわゆる「タンス預金」の総額は数十兆円規模に達しているとされています。その大半を保有するのが60代以上のシニア層です。詐欺グループはこの資産保有構造に着目し、タンス預金における旧紙幣対策に悩む心理を巧みに悪用します。
詐欺の典型的な手口は以下の通りです。日本銀行員、金融庁職員、大手銀行員、あるいは警察官を騙る人物から電話がかかり、「新紙幣が発行されたため、お手持ちの福沢諭吉の旧紙幣は今月末で使えなくなります」「旧札の登録抹消手続きを行わないと資産価値が失われます」「職員が自宅まで旧紙幣を回収・新札へ交換手続きに伺います」といった虚偽の事実を告げて訪問し、現金を騙し取ったりすり替えたりする手口です。
犯罪心理学および社会学の観点から分析すると、被害者が騙されてしまう背景には2つの心理的トラップが存在します。第1に、「持っている資産が紙くずになってしまうかもしれない」という損失回避バイアスの過度な増幅です。第2に、「公的機関が新制度に伴い親切に案内してくれている」と信じ込ませる権威への服従心理です。日銀や警察、金融機関の職員が、一般家庭を個別に訪問して紙幣を回収したり、新札への交換を電話で勧誘したりすることは100%絶対にありません。「旧紙幣を預かる・回収する」という言葉が出た瞬間に、詐欺であると断定して即座に電話を切り、警察(#9110)へ通報することが鉄則です。