物理学を深く学んだ人が必ず直面する疑問があります。「散乱の強さが波長の4乗に反比例するならば、青色(約450nm)よりも波長が短い紫色(約400nm)のほうが強く散乱され、空は紫色に見えるはずではないか?」という点です。
この疑問に対する回答は、大気の物理現象だけでなく、太陽光のスペクトル分布と人間の目の生理学的構造という2つの決定的な要因によって説明されます。
第一に、太陽が放射する光の強度スペクトルにおいて、可視光線領域では緑や青の光のエネルギー強度が最も高く、紫色に向かうにつれて強度が急激に低下します。つまり、もともと太陽光に含まれる紫色の光の量自体が青色よりも少ないのです。
第二に、人間の網膜に存在する色覚センサー「錐体細胞」の分光感度特性です。人間の目には以下の3つの錐体が存在します。
- L錐体:長波長(赤色付近)に感度のピークを持つ
- M錐体:中波長(緑色付近)に感度のピークを持つ
- S錐体:短波長(青色付近)に感度のピークを持つ
大気によって散乱された光が大脳に送られる際、S錐体が強く刺激されると同時に、M錐体やL錐体も適度に刺激を受けます。人間の脳はこの複合的な刺激信号を統合処理し、最もクリアな「青」として知覚するように最適化されています。もし人間が紫外線や紫色の波長に対して極めて敏感な視覚器を持っていたとすれば、空はまったく異なる色彩に見えていたはずです。