玄弥の最期が『鬼滅の刃』全編を通しても屈指の名シーンとして語られる最大の要因は、兄・実弥との魂の対話にあります。
崩れゆく弟を前に、普段は冷酷非情に見える風柱・実弥は取り乱し、涙を流しながら絶叫します。
「頼む神様 どうか玄弥を連れて行かないでくれ」
「頼む 頼む 頼む」
かつて鬼となって自分たちの幼い弟妹を殺害した実母を、実弥自らの手で討伐した凄惨な過去。当時、事情を知らなかった玄弥は実弥を「人殺し」となじってしまいました。その言葉を悔やみ、兄に謝罪し認められたい一心で鬼殺隊に入った玄弥に対し、実弥は一貫して弟を拒絶し、隊を辞めさせようと暴力的に接し続けていました。しかしその本心は、「玄弥には危険な戦いから身を引き、どこかで家庭を持って平穏に天寿を全うしてほしい」という不器用なまでの無償の愛だったのです。
肉体が崩れ去る最期の瞬間、玄弥は実弥に向かって穏やかな笑みを浮かべ、万感の思いを込めて言葉を紡ぎました。
「迷惑ばっかりかけて…ごめん……」
「兄ちゃんが…俺を…守ろうとしてくれたように…俺も…兄ちゃんを…守りたかった……」
「ありがとう 兄ちゃん……」
自分を責め続け、傷だらけになりながら生きてきた玄弥が、最期に兄の本当の愛を悟り、感謝を告げて消えていくシーンは、連載当時の誌面のみならず、コミックスを読んだ数百万人の読者の涙腺を完全に崩壊させました。